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遙か彼方までの夕暮れ

01.暮れ刻に、猫が逝く


衛星タイイツの墜落を阻止し、破壊するためにロケットを打ち上げて宇宙へ臨む事になった。
その際に、誰が乗り込むのかといった話になったので、自分が乗るのだと博士に伝えたら、人間では無理だと断られてしまった。
何でも、宇宙空間には空気が存在しないから、人の身では活動がままならないとの事。
では、仲魔の誰かを犠牲に?
それも少し、気が引けるのだけど。
なかなか答えが出せずに悩んでいると、隣で苦笑する気配がした。

「……ゴウト? どうした。」
視線を向けて問い掛ければ、ゴウトが笑いながら首を振って。
「いや、なに。簡単な質問に、何をそんなに悩んでいるのか……と思ってな。」
「簡単、か?」
「簡単だろう? ――俺が同行すれば、済むことだ。」
「ゴウト!?」
驚いた声を上げるライドウに、ゴウトは尚も笑ったまま言った。
「何だ? 俺じゃ頼りにならないというのか?」
「そうじゃ、ない……けど――」
「どうせこの姿は仮初のもの。詮無いことだ。」
「でも、……でもゴウト。帰還の保証が無いんだぞ?!」
「これも、帝都を救う為。七綺、泣き言は後にしろ。今は、一刻を争う事態だ。」
「……ゴウ、ト……。」
弱々しい声で名を呟いて、ライドウが――七綺が、ゴウトを抱き締めた。
傾いていく日差し、まだ明るい中で暗い影を背負いながら、七綺が言う。
「最後まで共に……というのは、叶わないのか?」
「元より、いつまでも一緒に居るということは出来んのだよ。分かっていたことだろ、七綺?」
「――……まだ早い……だろう?」
「いいや、もうそろそろ巣立ちの日だよ。お前は、既に立派なデビルサマナーだ。」
「……。……。」
沈黙して決断を下さず、しがみ付いたままの七綺を見て、ゴウトが言う。
「これ以上、その我侭が通ると思うなよ。……ほら――行くぞ、七綺?」
「――……。」
「七綺。」
今度は強い口調でゴウトが名を呼べば、七綺が――ライドウが、眼を伏せて口を開いた。
「……。承知、した。」
ゴウトから離れ、帽子の庇を引き下げるライドウ。
その表情は帽子の影に隠れ、隠され窺えない。

迫る時間。
帝都が滅ぶのを食い止めるために、タイイツを破壊しに空へ――宇宙へ、行かなければ。

「七綺、行くぞ。時間が無い。」
「……了解。」
微かに頷き、ゴウトと共に走り出す。
けれど。
今だに、ライドウの――七綺のその心は、定まってはいなかった。


◇  ◇  ◇


けれど現実は、変わらない。
ゴウトと仲魔を乗せ、宇宙へ打ち上げられるロケット。見送るライドウの表情は、暗いまま。
それをどう受け取ったのか、隣に立った鳴海が声を掛ける。
「大丈夫だよ、ライドウちゃん。ゴウトが居るんだ、失敗なんかしないさ。」
「……失敗、など……。……失敗など、しないでしょう。ゴウトが、居るのですから。」
「うん、そうだよね。……? ライドウ、ちゃん?」
見れば、ライドウは心、此処に有らずという顔で、空を見上げている。

「……ゴウト――……。」
暮れ始める空は今、見事な黄昏で染まりつつある。
帰って来てほしい。
無事に、帰り戻ってきてほしい。
そしてどうか、また一緒に捜査に行けるように。
また一緒に、この黄昏の中を歩けるように。
なあ、ゴウト。
最後まで共に……歩いて、行こう?
ゴウト、ゴウト。
もう、タイイツなんていいから。
どうか、どうか。
帰って、きて――……。
光すら灯らない希望を抱き、祈るライドウ。
でも――結末は、描かれたものと同じ有様を辿る。

眩しい光が、帝都の空を一瞬、走った。
それは、衛星タイイツが破壊された証。
そして。
共に、仲魔とゴウトが――消えた、印。

「ゴウト――……っ!」
堪らず、ライドウが叫んだ。
救われた帝都、守られた人々。
しかし、猫はそうして、帰らず。
猫はそのまま、細かな星塵となり煌き消えた。

「……っ……ゴウト――」
霧雨のような光の流星が降り注ぐ。
巣立ったばかりの雛だけが、取り残されて立ち尽くす。

黄昏が暮れていく。
まるで幕を下ろすように、ゆっくりと。