もこもこモコイ
01.肩越し喧騒
ライドウ&ノクターン:Maniax Chronicle
始まりは、モコイが唐突に放った一言だった。
「むふ。サマナーくんてば、怠慢ネ。」
「……何のことだ。」
その時、彼ら一行は――ライドウとアスラたちは、肩を並べつつさした目的も無く街を歩いていた。
それぞれの肩には付属品……もとい、それぞれの話し役。ライドウはゴウトを抱えており、アスラのほうには首元にモコイが張り付いている。
初めは、これからどうするかについての話をしていたのだが、いかんせん、ライドウが寡黙すぎるせいで、会話が直ぐに終わってしまうのでやや気まずかった。
そうして、話の流れが途切れ、途絶え。
何度目かの、沈黙という名の間隙が出来た時にモコイが言ったのだ。
ライドウに、”怠慢”だと。
何とも不躾に――そして、怖ろしく無鉄砲に。
突然そんな事を言われたライドウはというと、モコイを見て首を傾げた。
「モコイ……怠慢とは、何だ。俺の、何を指している。」
「何って訊くカネ。無自覚かネ、チミは。」
言うなりモコイはライドウのほうへ上体を傾げたかと思うと、無遠慮に手を伸ばすなり帽子の下から覗いている髪の毛に触れた。
そしてこれまた無礼千万、ライドウの髪をピンピン引っ張って言う。
「御髪よ、おーぐーし。何だかテンタラフー。むふ。」
独特の笑い声を漏らしながら、次はアスラの髪を触って。
「その点、ホラほら見なヨ。”ボクの”人修羅くんなどはコレ見事な素敵ヘアー。どうスか、見習ってみては?」
誰がいつお前の所有物になったんだ、とアスラが言いかけるより早く、唸る声が割って入った。
「七綺のこの艶やかな髪がテンタラフーだと!? モコイ、貴様! その目は役立たずか!」
「アハン。モコイは真実を言ったまーで。そういうチミこそ、その緑瞳は紛いものかネ?」
「何だとっ!」
「なーによ。やる気かネ、ボクと。」
この二人(?)は、とにかくあまり仲が宜しくないようだ。
それよりもとにかく、人の耳の側で喧嘩をするのは止めて欲しい。声がキンキン響いて堪らない。
アスラが頭痛を覚えてウンザリしていると、隣からひやりとした声が掛かる。
「……アスラ。」
「え?」
顔を上げれば無表情な書生が此方を見つめており、相手は帽子の庇を僅かに押し上げて言う。
「彼の方、の――ゴウト殿の気分を、あまり害して……くれるな。」
「いや、でもこれはモコイが勝手に――」
「俺はアスラに……手を掛けたくは、無い。」
「待って! なに、これ俺の責任っ!?」
物騒なことを淡々と宣告してきたライドウに、アスラはぎょっとした。
ゴウトを抱き上げている為に、刀を抜くことが難しい状態でいるのがせめてもの幸いか。
もしかすると、これからもこのような光景が続いていくのではないか。
不確かな予感は、けれど確実めいた嫌な凶兆。
「ああもう……なんで俺ばっかり!」
遠い目をして、まだ見ぬ未来の災厄に嘆くアスラ。
その側ではまだ猫と悪魔が喧嘩をしていて、書生が静かに動向を見つめていた。
彼らの旅は、まだまだ続く。