業に徒なす咎猫は
◆02◆ 咎の痛みは今更に
「じゃあ、少し出掛けてくる。ゴウト、済まないけれど、その間――」
「分かってるさ七綺。留守番は任せろ。」
「ん。有難う。」
「……。」
偶に起きる、ライドウの単独行動。
勿論、無断の行為でも何でもなく、唯ゴウトには業斗童子としての仕事があり、ライドウには葛葉ライドウとしての役目があって、それぞれに別行動を取らざるをえなくなっただけである。
――十四代目、葛葉ライドウ。
出逢った当初はまだまだ若輩者で、雛っこで。
あの頃のライドウは、少年か青年かの狭間で惑うていた新米同然の若者だった。
そんな雛鳥も今や羽が生え揃え、颯爽と飛び立てる若鶏へと成長した。
ゴウトから見ればその過程時間はまだまだ少ないものではあるが、人の身である彼にしてみれば充分な月日である。
逞しくなった雛鳥。
いいや、既にライドウは――七綺はもう、雛ではない。
ゴウト、ゴウトと。
傍に猫が付き添っていなければ不安げでいた葛葉は、気づけば一人で――独りで行動を起こせるようになっていた。
離れていく。
離れていく。
ゴウトを置いて。
置き去りにされて。
いつか、見るのだろうか。
この書生の死を。
いつかは、看取らねばならぬのだろうか。
七綺が死に逝く様を。
往ってしまう日は、いつやって来る?
逝ってしまう日は、何時訪れる?
それは必ず見なければならない未来。
業を背負いし己に課せられた、永劫の罰。
「……ゴウト?」
名を呼ばれて、猫はハッと我に返った。
意識を回想から戻してみれば、ライドウが心配げな顔をして此方を見つめている。
「何かあったのか?どこか具合でも?」
「む……いや、何でもない。」
「でも、今……苦しそうだった。」
「何でもないんだ七綺。本当に、何でもない。それよりも、出掛けるのだろう? ほら、早く仕度をしろ。」
「ああ、うん……。――そうだ、ゴウト。」
「ん? 何だ。」
玄関口、外套を身に付けたライドウが肩越しに振り返り、言う。
「早く帰ってくるから。成るべく、早く。だから……」
「心配するな。俺は此処でお前の帰りを待っている。……大丈夫だ、行って来い。」
「分かった。じゃあ行って来るよ。」
「ああ。またな、七綺。」
ライドウを見送った後、ゴウトは不意に笑う。
ああ、そうだ。
このような調子で居れば良いのだと。
彼が死に逝く日も、このようにしたらいいのだ。
互いに笑顔で、それこそ何でもないように。
そして約束すればいい。
また、いつか――いつの日か、と。
それは遠くにある未来。
回避できない別れの時。
泣きはすまい。
落涙などするものか。
「最期にお前は泣くのだろうが、俺は笑うぞ七綺。だからお前も――笑ってくれよな。」
ただ笑って見送りたい。
彼の心に己を焼きつけて。
あの涙に自分の最期だけを映して。
彼が自分を忘れないよう、それこそ――永劫の死を刻み付けて……逝きたい。
それが、黒猫の願い。
酷い願いであっても、切実なる祈りは純粋に請われて。