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もこもこモコイ

04.詰問

ライドウ&ノクターン:Maniax Chronicle


「なぜ七綺の帽子を奪っていったんだ、モコイッ!」

詰問は、酷く険しい声の叱責から始まりを告げた。
早々、ゴウトの雷が一直線に飛びかかる。矛先は、アスラの首筋にしがみ付いたモコイであった。
その当人はというと、先程からずっと身を丸めて押し黙ったままだ。身動き一つせずアスラの背中で顔を伏し、怯えているのか、小刻みに震える身体。
そのモコイの震えを背中で感じとりながら、アスラは溜め息を吐く。

怯えを誘発させているのは、果たして何だろう。
ゴウトの剣幕か、それとも――その隣の、ライドウの気配か。
アスラとしては、怒るゴウトよりも、無表情に佇んで何も言わないライドウが気になっていた。
刀を抜きやしないか、とか。
銃を撃ってきたりしないだろうか、とか。
ライドウとは以前に、あの深き迷宮の底で仲間(仲魔?)の誓約を交わした仲であるから、そう突然に襲い掛かられたりはしない筈だ。
……と、思いたい。
そんなことを願いつつ、アスラが何気なく視線を上げれば、無言でこちらを見ているライドウと目が合う。
「……。」
「……。」
状況がどうであれ、このまま何も言い返さないでいるのは、まずい気がした。
しかしモコイは口を開こうとしない。
モコイが居るのは、アスラの背中。

故にモコイの代わりに応じなければいけないのは、背中の主であるアスラの役目という訳になるのだろう。


◇  ◇  ◇


「あの……すまなかった。ライドウ。……ゴウト、も。」
アスラが素直に頭を下げて謝れば、ライドウは首を振り、静かな声で応じる。
「否……アスラが謝罪することは、無い。それに……俺は、さして構わないのだが。」
「――良くない!」
ライドウは寛大な態度で――寛大というよりあまり気にしていない風にも見えるが、とりあえず許してくれたようだ。が……連れであるゴウトは、違うらしい。尚も怒りの形相を崩さず、声を荒げて噛み付いてくる。ライドウの感情の引き受け役とでもいうように。
「黙りが通用すると思うなよ! さあ、白状しろモコイッ! 何で七綺の帽子を奪っていった!?」
「……。」
ゴウトの剣幕に、アスラはなかなか口を挟めずライドウを見遣った。
するとライドウがその視線を受け止め、首を傾げる。

「……何だ、アスラ。」
「あ、うん。その、さ……。」
ゴウトの邪魔にならないよう、アスラは小声で会話する。
「ライドウは、モコイのしたことに対して本当に何も思ってないのか?」
「……何か、思案すべきこと、なのか。」
「いや……。うん、ライドウが怒ってないんだったら、いいんだけど。」
「俺は……自らの意見など、無い。」
「えーと。つまり……怒っては、いないんだよな?」
「ああ。」
ほっとするアスラ。
だが、次にライドウが言った言葉に肝を冷やすことになる。
「しかし……今が状況は、看過不可の、事柄だ。」
「え?」
「彼の方の質疑に、応じていない……。これは、不遜に値する。」
言うなり、ライドウが動いた。
ゴウトを抱いたまま、ぐいとアスラに近づいたかと思うと、視線を背後のモコイに向けて口を開く。

「モコイ。彼の方の問いに、答えを返せ。……お前の態度は、看過できない。」
「……。」
それでも答えないモコイに、ライドウが僅かに首を傾げた。
外套の下で、何かが動く気配がする。
腰元。あの辺りにあるのは確か――拳銃か、刀剣か、だ。

「――待ったライドウ! 待ってくれ!」
嫌な予感を感じたアスラが、ライドウを制止した。
動きを止め、アスラを見遣るライドウ。アスラは眉を顰めて首を振ると、視線だけでライドウに慈悲を請う。
ライドウが頷き、外套の下の不穏な気配が消えた。
ふう、と溜め息を吐いたアスラは、次に肩越しからモコイを見遣り、声を掛ける。
「モコイ、ほらモコイ。ライドウは別に怒ってない。だから、早く説明するんだ。」
「……人修羅くん……。」
えぐ、と喉奥から絞り出すような声が聞こえたのと同時に、モコイが少しだけ顔を上げた。
「怒ってナイ?」
「怒ってないよ。」
「……。」
ゴウトが眉間に皺を寄せて睨みつけていたが、不意にライドウがゴウトを引き寄せると、外套を掛けて視線を遮った。
そんなライドウの行動に、アスラは少しばかり驚く。
(フォローしてくれてる……のか? ……有難う、ライドウ。)
アスラが心の中で礼を言えば、聞こえたわけでは無いだろうが、ライドウは微かに首を傾げて頷いてみせた。
その際に、ライドウの口端が僅かに上がっているような――笑っている?――気がしたが、今はそちらに気をとられている場合ではない。
アスラはモコイに意識を戻すと、再度、穏やかな口調で語りかける。

「自分のしたことの説明が出来るな? モコイ。」
「……ウン。」
子供のように頷いたモコイはアスラの背に隠れたままだったが、それでも顔を上げると、ようやくポツリポツリと話し出すのだった。