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もこもこモコイ

05.真意

ライドウ&ノクターン:Maniax Chronicle


「あのネ……、――……。」
モコイは詳細を話そうとするが、一言喋るたびに口を噤み、直ぐにアスラの背中に隠れてしまうので、なかなか展開が進まなかった。
「~~~っ!」
焦れつつある、ゴウト。
「……。――モコイ。」
その毛並みを緩やかに撫でながら、静かな声で促したのはライドウである。
ひやりとした冷たさに、モコイは僅かに身を震わせアスラの背にしがみ付いたが、刺激剤にはなったらしい。顔を伏せたままだったが、ようやく話の続きを紡ぎ出した。

「だって……人修羅くんてば、丸裸だから。」
「なっ!?」
第一声がとんでもない台詞だった。
ぎょっとしたアスラは言葉を失い、一時呆然とした。だが直ぐに我に返ると、即座に首を大きく横に振りながら嘆き叫んだ言葉は、訂正。
「いやいや、全裸じゃないから! 全裸じゃないし!? せめて半裸って言えよ!」
「それで、寒そうだなと思ったのデ。……だからサマナーくんのお帽子を貰ったっスよ。」
「聞けよ!」
「それに第一、”貰った”のではなく、”奪っていった”が正しいだろうが!」
アスラに相乗するかの如くゴウトが唸り声で吐き捨てるも、やはり黙したままのライドウが、彼の頭を撫でて気を静め、話の続きを繋ぐ。
「すると、モコイ……お前の行動は、全て、アスラの為か。」
「そうなのヨー。」
「それは……慈愛、か。」
ライドウの発した言葉――恐らくは、”愛”という単語に反応したのだろう。
モコイは、にょっとアスラの肩越しに顔を覗かせると、満面の笑みで言い返す。
「イエース! モコイは、人修羅くん、らーぶなのよー。」
「モ、モコイ……。」
先程の怯えは何処へやら。
真っ直ぐに見返す姿に、アスラは思わず目を瞠る。
「……そう、か。……。」
対し、ライドウは無表情に頷くと、帽子の庇を少し下げて押し黙った。
「ライドウ?」
ハラハラしながら、そのライドウの様子を窺うアスラ。
不穏な気配は感じられないから心配はないのだが――それでも、意識を逸らすことは出来ない。
「……モコイ。」
寡黙な書生は学帽の庇を軽く押し上げると、モコイを真っ直ぐに見返して口を開いた。

「……俺が、彼の者に――アスラに、着物を作ろう。」


◇  ◇  ◇


「はぁっ!?」
「七綺!?」
アスラとゴウトが同時に驚いた声を上げ、やはり驚いた顔をしてライドウを見た。
ライドウは彼らからの注視を難なく受け止めると、ただ一人、抑揚の無い声から先を繋ぐ。
「モコイは、アスラが……好き、なのだろう。それは――悪しきことでは、ない。違うか。」
「で、でもライドウ!」
「アスラは、モコイを……厭う、のか。」
「そ、そうじゃない、けど……。」
真っ直ぐに見つめられると、否定がしにくい。
怖ろしく整った美貌と、抑揚の無い声。
それらは艶やかに肺腑に響き、ぞくりとさせる妖しさで。
「え、えぇと……。」
アスラはひどく戸惑ってしまい、返す筈だった言葉を途中で止めて黙り込む羽目になった。

(何だろう……。今のライドウ、あまり怖くないような……? )
それは冷たく感じる声が、気配が、どことなく和らいでいる気がするせいか。
それとも、先程に見た、微笑らしきものが未だ心に焼き付いているためか。
心が惑う。
恐怖とは別の何かが、胸の奥で揺らめいている。
不可思議な感情。
これは――これは……? 
そんな中、ライドウが更にアスラに訊ねてくる。

「アスラ。構わない、か。」
――モコイが、傍に居ても。

口元を僅かに上げて、首を傾げるライドウ。
今度は、はっきり見て取れた。
それは無表情なライドウが初めて見せた顔である。紛うこと無き絶佳の微笑。
アスラは目を丸くし、息を飲む。

(ライドウが、笑っ――……)

「……アスラ。答えを。」
見蕩れる間も無く、強いられる返答。
柔らかな美貌の凝視。
否定など出来ず。

「わ……分かっ、た。」
だから、つい――頷いて、しまった。
その肯定は、モコイが側に居てもいいのだという承諾。
ああ、遂に認めてしまった。

「……むふ。」
その瞬間、首筋でモコイがほくそ笑むのを、アスラは聞いた。
気のせいではない。確かにはっきり聞こえた。そして聞き間違いでなければ、今のは策士が己の策の成功を喜ぶ声だった。
アスラは考える。モコイは初めからこうなることを予想していたのだろうか? 
そういえば……、ふと或ることを思い出す。
この口調の悪魔は、インテリめいていた。いわゆる――曲者系。
(この……策士め! )
アスラは思わず怒鳴りつけてやろうかと、振り向きかけた。
だが、それ以上の厄介に巻き込まれたくなかったのだろう。本能が察したのか、行動が止まる。
(あ~~、もう!)
アスラは拳を握り締めつつ、震えて耐えた。
騒動は御免だ。ゴウトの怒りを爆発させるのも御免だ。
それより何より、一番厄介なのは――あの氷の書生、葛葉ライドウ。
アスラは音の無い溜め息を吐き、どうにか耐え切ることに成功する。
何事もなかったような表情をし、そのまま敢えて、気づかない振りをした。
泣き寝入りに近い感情に包まれる。どうにも遣る瀬無い。

仕方ないので、これもまたカルマだかコトワリだかの試練の一つだと思い通すことにした。
しかし――この顛末に、ライドウだけは気づいていたのかも知れない。
何故なら例の書生は、アスラとモコイに視線を留めたまま、静かに微笑していたから。
帽子の陰から覗く、穏やかな微笑み。

(結構ライドウも狡いよな……。)
アスラは心の中でひっそり呟き、溜め息を吐く。
ライドウの作る着物というのは、どういうものなのだろう。
脳裏を過ぎるのは、漠然とした不安。
そんなアスラの背中の陰では、モコイがくふくふ笑っていた。

其のヒトの心労は、誰が為の愉悦――?