TOPMENU

もこもこモコイ

08.続・お揃いへの道

ライドウ&ノクターン:Maniax Chronicle


沈黙と会話の交互を幾度か交えた後、ようやくアスラの服が完成した。
ライドウ手製の服は既製品のように生地も仕立てもしっかりしており、アスラはその完成度に目を瞠るばかり。
だが――出来上がった服のデザインを見て、感嘆とは別の意味で沈黙する。

「……。」
「どうした、アスラ。」
「いや、あのさ、これ……。」
ライドウの手前もあるのか、素直に言おうか言わまいかアスラは迷い、口篭った。
その様子にライドウは首を傾げると、アスラの服に触れながら言う。
「型に不備があるか。それとも……裁縫に、何か。」
「いや、そうじゃない! 完璧だよ、うん、もうバッチリ!」
「……完璧、などというものは、易く為せることでは、ない。……過ぎた賞賛は、不要だ、アスラ。」
「えーと……。」
何故か怒られてしまった。
ライドウはどうしてか、このように己を卑下した発言を口にすることがある。
癖なのか、謙遜しているだけなのか、それとも何か別の理由があるからか。
……いつか、ゴウトに尋ねてみよう。そんな事を考えながら、アスラは話を繋ぐ。

「あ、あのさ。この服って――ライドウが着ているやつと、一緒だよな?」
そう。そうなのだ。
出来上がった服は、ライドウが身に付けている書生の衣装とそれこそ上から下まで見事に同じデザインをした代物であった。


◇  ◇  ◇


アスラの言葉に、ライドウは首を傾げた。
どうやら、当初の話と差異があることに気づいていないらしい。
「俺と揃いは……異が有るか。」
「そ、そうじゃなくて!」
そもそもこの話の流れになった原因は、確か別の誰かが”お揃い”がどうとか言い出したのが問題であって――……。
アスラは迂闊な発言をしないよう、言葉を選びながらライドウに説明しようとした時だった。

てててててててててて。
独特の足音が近づいてきた。
そして。

――もちっ。

「酷い! 酷いっスよサマナーくん!」
アスラの背中にもっちりと張り付いてくるなり叫んだのは、今回の出来事の”原因”である悪魔。
つぶらなお目々がぷりちーな、みんな大好きモコイさん! (……とは、本人談。)
モコイはよじよじとアスラの背中を上り詰めると、肩口から顔を出してライドウを糾弾した。
「ボクの人修羅クンに、チミとのお揃いを先に着させるナンテ狡いじゃないっスか!」
「ん……。これでは、無いのか。」
モコイを見て、ライドウが首を傾げた。そんな書生の涼しげな相貌をキッと睨んでモコイが叫ぶ。
「チミには黒猫くんが居るデショー!? 人修羅くんは、ボクの、らばーなの!」
「コラコラコラ! どさくさに紛れてとんでもないことを言うんじゃない!」
途中でアスラが否定の言葉を挟むが、モコイは構わずライドウに向かって続ける。
「そんな人修羅くんの”お揃い”と言ったら、ほら、チミ、分かるでしょ。」
会話の最中、モコイは何度もアスラにちらちらと視線を向けてはウインクした。
ライドウもライドウで、もうそれ以上は無視してくれればいいのに、律儀にモコイからの伝達を読み取ると、一つ頷いて。
「ああ……。解した。では……――直ぐに。」
「ライドウ!? いやもう良いから! 良いってライドウ――!」
「イッテラッシャーイ。」
ライドウに腕を捕られ、ずるずると引き摺られていくアスラを、モコイは手を振って見送った。

「むふ。楽しみね。」
その場に一人残ったモコイは身体をくねくねさせ、彼らが戻ってくるのをうきうきと待ち続ける。
空間の奥で、「モコイの馬鹿ー!」と叫ぶアスラの声を聞いた気がしたが、幻聴だと思うことにしたモコイは正しく悪魔であった。


◇  ◇  ◇


「あ、戻ってきた。ひーとしゅーらくーーーん!」
時間が幾らか経過した後、彼らは再び戻ってきた。
ライドウは先程と変わらず無表情だったが、アスラは酷く疲れた顔をしている。こちらに向かい来る足取りが、見事に重い。
モコイの元まで戻って来ると、ライドウはアスラを見遣って口を開いた。
「アスラは……此方の”揃い”が良かったのだな。……済まなかった。」
気遣ってくれるのは嬉しいが、今は全く以って嬉しくない。
両手で身体の各所を隠すようにしたままのアスラが言い返すのは、勿論だが感謝の言葉などではなく非難。
「違うから! というか、これじゃ余計に裸に近いじゃないか!」
先程の書生の衣装の方がまだマシだった、とアスラは思った。
モコイの伝達をライドウは明確に読み取ったらしく、次に完成した服は――……。

いや、それを”服”といっていいものか。
アスラが身につけているのは、腰元に巻いた布一枚きり。
それは、古来より伝わる伝統的な男性下着である。

「男ならやっぱ褌っスよね! むふふふふ。」
これまた何処で調達したのか。褌は、上質な純白の布で出来ていた。
「お尻がステキー! なのよ人修羅くん! べりきゅー! べりべりぷりちーっス!」
はしゃぎ喜ぶモコイとは対照的に、アスラの表情は当然ながら暗い。
「こんな格好でどう戦えって言うんだ……!」
それに、元々は”寒そうだから”というのが理由ではなかったか。呟きを聞いたモコイが、アスラの首筋にもちっと顔を寄せながら言い返す。
「なにヨー。これってば立派な戦闘服っスよー? 知んないのかネ、チミは。」
「う、ぐ……。」
「その上、指揮官が裸一環の方が士気も上がるとおもうネー。お尻もぷりちーだから、マリンカリンとか出来るかも? むふふ。」
「……! それは唯の詭弁じゃ……、……う~~!」
モコイの切り返しにアスラが言葉に詰まれば、その会話の続きをライドウが継ぐ。

「……モコイ。これは、お前の願いに副っているか。」
「あはん。さんきゅーなのよサマナーくん。バッチリっスよ!」
「そうか……嬉しい、か。」
「モチロン! 感激感謝っスよ、むふ、ふふ……ドゥフフフフフ!」
「……。」
顔に満面の喜色を浮かべてアスラにしがみ付くモコイを見て、ライドウが僅かに微笑する。
幸せな光景。――だと言いたいところだが、生憎とアスラはそのような心境ではない。

「……災難だったな、アスラ。」
そこへ、今までの経過を何処かで見ていたのかゴウトがやって来た。
足元へ寄って来た黒猫に、赤い顔をしたアスラが囁くように言う。
「ゴウト! 何でライドウを止めてくれなかったんだよ!」
「うむ……済まん。俺の監督不行き届きだ。しかしな、アスラ。お前もお前だぞ。何も律儀に着替えることも無いだろうに。」
謝罪の言葉を素直に口にするも、ゴウトもゴウトでしっかり言い返せば、アスラは顔を歪めて叫んだ。

「ライドウに真っ直ぐに見つめられて、拒否出来るもんならとっくにやってるさ!」
「む……まあ、な。」
整いすぎた氷の美貌。
深い闇色の瞳。
そんなライドウの凝視を前にして尚、逆らえる意思が働いていたなら。
――そのように強く在れたなら、最初からこのような事態など起きやしなかったわけで。

「ま、まあまあ。落ち着けアスラ。」
悔しげに呻くアスラを宥めながら、ゴウトが言う。
「七綺も嬉しそうにしてるし、モコイもそう厄介なことをしなかったじゃないか。……今回は子供のしでかしたことだと思って、許してやれ。」
「俺だってまだ子供の範囲だよ……――はぁ……。胃が、痛い……。」
垂れた褌の前で身体をそっと隠しながら、アスラは一人だけ損をしたような気がして眼を閉じる。
零れたのは、もうすっかりお馴染みとなった何回目かの溜め息。

首元にはまだしがみ付いたモコイが居り、側ではライドウが静かに微笑んでいた。