もこもこモコイ
11.助言、進言、そして魔弾
ライドウ&ノクターン:Maniax Chronicle
ライドウとモコイを最初に仲魔に引き合わせた時のことは、今でもよく覚えている。
赤い世界。
命を賭けた追いかけっこの果てに勝利したアスラは一先ず、美貌の書生と黒猫を連れて仲魔の元へと戻った。
ライドウの纏う気配は、悪魔であっても畏怖を抱かせるものらしい。
最初のうち、仲魔たちはライドウから見事に距離を置いてしまい、遠巻きに様子を見ているのみで絶対に近づこうとはしなかった。。
アスラが仲介に入り、説明し、どうにか周囲と馴染ませることに成功したのは、それから三日くらい後だったか。
色んな意味で疲れたが、最も疲れの原因になったのは――。
「はろーフトミミくん。」
「……や、やあ。」
「あはん。そしてソチラのチミがサカハギくんネー。お噂はカネガネ。うひ。」
「……アァ?」
人見知り――いや、悪魔見知りをしてくれない悪魔が、一緒に漏れなく付いてきた。
”つぶらなお目々ともっちりしたお尻がキュートな、みんな大好きモコイさん! (自称)”で、ある。
「……おい、アスラ。」
「いや、俺が勧誘したんじゃないから。」
サカハギが何か言う前に、アスラは即答した。
その先制は気分を害したらしく、がりがりと頭を掻きながらサカハギが言い返す。
「じゃあ何で付いてきてんだよ? 大体の事情は聞いたが、あのライドウ? とかいう得体の知れねーヤロウは、ともかく――」
そこでサカハギの表情が不意に険しくなった。アスラ、というよりはむしろ彼の”首筋”を睨みつけて、低い声で唸り返す。
「……お前に妙に馴れ馴れしい、その変な悪魔は何なんだ? あぁ!?」
「変とはなにヨ! シツレーな!」
アスラの首元にもっちりとしがみ付きながら、”変な悪魔”はサカハギに向かって言い返した。
「ボクの名前はモコイ、だって言ったでしょ、もー! チミ、おバカ?」
「……んだとテメェ!」
サカハギに物怖じせず答えるモコイを見て、アスラはこれから己が背負うであろう苦労を、はっきりと悟るのだった。
素敵な予感は的中し、後に現在まで続くアスラの苦労の元となっている――……。
◇ ◇ ◇
「……アスラ。このようなことを言うのも、なんなのだが――仲魔は、選んだ方が良いと思う。」
「だから。俺の意思じゃ、ないんだってば。」
「あはん。仲良くしようよチミたち。」
今日のところは此処で休もうと決めたアスラは、仲魔たちと共に準備をしていた。
その作業の間も、アスラに纏わり付いて離れようとしないモコイ。
共に作業をしていたフトミミが話しかけたのは、そんな時のことだった。
「モコイ……アスラが困っているから、離れてやればどうだ。」
「んまっ! 見かけで判断するのはバッドっスよ、フトミミくん。」
モコイの言い分では、これでも”アスラを手伝っている”らしい。
だが、足や背に纏わりついてはちょっかい掛けている姿を見る限りでは、どうにも邪魔をしているだけにしか見えない。
「……モーコーイ! 邪魔するなってば。」
とうとう髪の毛を触りだして遊び始めた為、アスラが背中に張り付いているモコイを叩いた。
モコイは、「あきゃっ」と、なんとも奇妙な悲鳴らしき声を上げると、伸びてきたアスラの手を掴み返して言う。
「んもー! お目々が飛び出たらどーしてくれるっスか。」
「そうなったらなったで、ビー玉でも嵌めといてやるよ。」
「あ、ボク宝石がいいね。チミ、確かダイヤモンド持ってたっスよね? むふ、アレで宜しくてヨ。」
「……調子に乗るな。いいから下りろ。邪ー魔!」
「ヒドッ! お手伝いしてあげてんでしょー。何ヨその言い草はー。モコイショック!」
「耳元で大きな声を出すな! ああもう、下りろって!」
「ドゥフフフ。もーう照れちゃっテ。」
「何でそうなるんだ! だから、邪魔なんだと何度言え――あ!? コラ、ちょ、そこは……!」」
「……なんつーか、アレだな。」
いつの間にやって来たのか手に敷物を抱えたサカハギが呆れた顔をして呟けば、丁度その隣にいたフトミミがそれを聞きつけ、首を傾げた。
「何がだ、サカハギ?」
「いや、よ……あいつらのやり取り見てると、夫婦喧嘩見てるみてーだな、と。」
「ははは、言われて見ればそうかもしれないな。しかし……アスラが聞いたら怒るぞ?」
「――とっくに聞こえてるんだよ二人ともっ! サカハギっ、フトミミっ!」
どうにかモコイを引き剥がすことに成功したアスラが、彼らの話に割って入ってきた。
「ったく……勝手なことばかり。」
かなり苦労したらしく、アスラは肩でゼイゼイと息を切らしつつ、モコイの首根っこを掴んだまま彼らの方へ歩いてきた。
「……サカハギ、フトミミ。」
アスラは乱れた髪も直さず表情だけで不意にニコリと微笑むと、ずいとモコイを突き出して言う。
「魔弾を喰らうのと、モコイのお守をするのと。――どっちが良いか、選べ。」
どうやら助けないで傍観していた彼らに対し、怒っているらしい。
この笑みは、そういう笑みだ。
しかも現時点でアスラは、「貫通」という凶悪なスキルを手に入れている。
「貫通」+「気合」からの魔弾は、さぞかし痛かろう。――最悪、サマリカーム。又は、回復の泉へ直行である。
彼らは引き攣った表情を浮かべると、僅かに後退りながら叫んだ。
「こ、後者で!」
それはフトミミとサカハギが見事にシンクロした、珍しい瞬間だった。
彼らの答えを聞いたアスラは笑んだまま一つ頷くと、モコイをサカハギに押し付けて言う。
「じゃあ、後は宜しく。俺は向こうでライドウと話をしてくるから。」
言いながら背を向け、立ち去ろうとするアスラに、サカハギの腕の中でモコイが叫ぶ。
「チョットー! らばーであるボクを差し置いて、サマナーくんと不倫とは何事なのーー!」
「……サカハギ、フトミミ。モコイから、絶対、目を離すなよ?」
「わ、分かったっつーの! いーからライドウのヤロウんとこへとっとと行けよ!」
「き、君の命令は極力死守するつもり……だ。うん、多分……!」
「イヤー! 一緒なノーー! 人修羅くーん!」
「ばっ、テメッ……こらっ、暴れんじゃねーよ! フトミミ、テメェも手伝え!」
「あ、ああ。」
じたじたと暴れるモコイを押さえつけるサカハギとフトミミに、アスラは一瞥の視線を投げると、その場から立ち去ろうと背を向ける。
新たに得た力は、全ての感覚をも進化させてくれたのだろうか。
その時アスラは、囁き声で何か話し合う彼らの声を聞くことになる。
「だーいじょーぶだってモコイ。今はあんな態度してっけど、後からフォローしに来るぜ。」
「マジっスか!」
「マジマジ。なあフトミミ?」
「そうだね。アスラはああ見えて照れ屋なところもあるから。かく言う私達も、似たようなことがあったから分かるよ。」
「ナニ、人修羅くんてば恥ずかしがり屋さんだったノ!? オウ、ベリーナイス情報!」
「な、モコイよ。あれで後から頬なんか染めて謝りに来たりしたら、ソソらねぇ?」
「むふ。悦いっスねソレ。頬を染めた人修羅くん! 実にナイス! ドキドキだね、チミ!」
「それが我らアスラの魅力だろうね。実を言うと私も、あの天邪鬼っぽいところが好きで。」
「うお! いきなりカミングアウトかよフトミミ!」
「あはん、欲望にチュージツねチミタチ。ドゥフフフフ!」
「……ふー。」
アスラは震えた吐息を吐くと、深呼吸をして両手で握り拳を作った。
そして、ゆらりと背後を振り返り、身構え――彼らに向かって、叫ぶ。
「三人纏めて――大人しく寝とけっ!」
「待てっ! アス」
「アスラ、待ってく」
「あきゃ――!」
重い衝撃と鈍い振動が、彼らに襲い掛かったのは言うまでも無い。