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もこもこモコイ

24.savers!

ライドウ&ノクターン:Maniax Chronicle


その静寂、一握のざわめきに乗じて通り抜けるは姦しい声。

「ヨシツネくーん! ドコー! ヨシツネく――ん!」
ててててて。ててててて。
足音らしきものと自分の名前を叫ぶ声に、物陰で横になっていたヨシツネは顔を顰めた。
舌打ちし、億劫そうに身を起こす。
これで寝ていられるほど無神経では無い。

「ウルセーな。何だよ。」
寝そべったまま顔だけを僅かに上げると、此方に向かって駆け寄ってきたモコイを睨みつける。
されども、相手は氷の書生ライドウにすら無茶振りを発揮する(しでかしてくれる)トラブルメイカーである。
平然とした顔でヨシツネに近づいてくると、その肩を掴んで声高に叫んだ。
「さ、人修羅くんレスキューにレツゴーっス!」
「あ? れす……何だって?」
「ダーカーラ。レスキュウ! ――助けに行くんスよ!」
「はあ? ……誰を。」
「チミはほんと記憶力が足んないネ。人修羅くんって言ったじゃないスか。」
……人修羅? 
ヨシツネは視線を中空へ投げて考える。
少しの間。
やがて、ああ、と頷いて。

「あのシマシマ少年か。」
「――人修羅くんって言ってるデショ!」
ヨシツネの愉快なあだ名に、むきーと唸ってモコイは腕を振り回した。けれども相手は武道に通じている武士である。簡単にいなされ、ひょいと脇へ転がされ、ごいんと蹴り転がされてしまった。
流石は八艘跳びの名人。
いやいや褒めてる場合ではなくて。
半分息を切らせつつ身を起こすと、モコイは説明を続けた。
「ね、助けに行くんスヨ。だーかーら、ヨシツネくんも! 強いでしょーチミ。」
そう言って腕を引っ張るのだが、相手は腰を上げるどころか頑として動かない。
モコイを睨みつけ、気の無い声で言い返す。
「あーのなぁ。俺はライドウの仲魔だぞ? アスラの救出なんざ、関係ねーっての。」
「ヒドイ! ヨシツネくんのハクジョーものー! オニー!」
「あーもうウルセーなぁ。」
再び懲りずに殴ろうとしてくるモコイのその手をはっしと掴んだところで、ヨシツネは、とあることを思い出した。
腕を軽くにじり上げながら凄むは、かつての屈辱。

「そういえばモコイよぉ……てめー、俺の刀盗んだの忘れてねーか。」
それは何時かの刻。
モコイは、ヨシツネの刀を盗んだことがある。
それに気づかなかったヨシツネもヨシツネだが、窃盗を働いたモコイもモコイだ。
質問に、けれど盗人ならぬ盗悪魔はドゥフフと笑って。
「いーじゃないスか。結局あれは、チミの好きなサマナーくんのお手手に渡ったんだからー。」
”好きな”とモコイが口にした瞬間、ヨシツネの頬に朱が差したのを誰が知ろう。
いやモコイはバッチリ見ていたが。
というか、分かってて言ったわけだが。
ドゥフフフと意味ありげに笑うトラブルメイカーをジロリと睨み、ヨシツネは誤魔化すように舌打ちしつつ言い返す。
「チッ。アスラなんざ所詮他人だろーが。」
「違うっス! 仲魔っスよ!」
「他のやつらに当たれよ。面倒くせー……」
「――……ヨシツネ。」
「どわっ!? ラ、ライドウ!」
いつの間に側にやって来たのか、背後から聞き覚えのある声がしたのでヨシツネは大きく身を仰け反らせて驚いた。
氷の声はともかく、足音がしなかった。気配も。
やはり彼の書生は見事だ。
戦慄するよりも惚れ惚れとするのは、そちらの想いが強い為か。
この反応から見て察するに、モコイにからかわれても仕方の無いことだと思う。
そんなドキマギしたヨシツネの心中など当然ながら知らぬ書生は、相手を見下ろしながら淡々と告げる。
「アスラの救出に向かう。……助勢を。」
「で、でもよお……」
途端に素直に、何処となくしおらしくなるヨシツネ。最初からライドウに交渉させれば早かったのだろうが、モコイが先走ったのだから今更だ。
「対価……マグネタイトならば、支払う。それでも……異議が、あるか。」
「い、いや……その……ライドウが気にしてねーんだったらいいんだけど、よぉ……。」
などと言いながらも、ヨシツネはもごもごと口篭るだけで、なかなか頷こうとしない。

モコイが焦れて口を挟もうとしたその時、不意にライドウが動いた。


◇  ◇  ◇


白い手が、ヨシツネの頬に触れた。
ライドウを見上げ、目を見開くヨシツネに掛かるは氷の声。
「……俺は、アスラを気にして在る。大切な……仲間だ。」
「だ、だけどよぉ……」
「ヨシツネは、アスラを厭うのか。アスラは、アスラだ。仲間となりしもの。背後より強襲することは、決して無い。」
「そ、そういう意味じゃ――ああ! もう! 分かったよ! 手ぇ貸してやるよ!」
語りながら段々と視線を伏せていくライドウに耐え切れなくなって、遂にヨシツネは白旗を揚げた。
勝てるわけが無い。
元より、彼は自分の召喚主だ。
かつての人と同じくらいに敬愛する葛葉ライドウ、その十四代目。
ヨシツネがやっと同意してみせれば、ライドウが帽子の庇の下で氷を砕く。

「……感謝を。……頼りに、している。」
「ヘッ。任せろ!」
ああこの麗しき微笑。彼の笑顔が見られるのならば、幾らでも力を貸そう。
見蕩れるヨシツネ。
その横から割って入るのは奇妙な笑い声。
「どぅふふ……ヨシツネくんてー、何だかサカハギくんみたいっスね。」
その言葉に、ライドウが首を傾げてモコイを見た。
「サカハギと、ヨシツネが同類……。類似点があるようには、見受けられないが。」
「外見じゃなくて、中身っスよ。ナカミ。」
「……解せ無い。意味を問う、モコイ。」
答えを促されたモコイはドゥフフと笑うと、ライドウの足をチョイチョイと突付いて言った。

「つまり――素直じゃないんっスよ。むふ。照れ屋さんダヨネ。」
「――うるせえ!」
顔を真っ赤にしたヨシツネが怒鳴ったが、モコイはわざとらしく飛び上がると、笑いながらライドウの後ろへ回り込んでいった。

数十分後。
ライドウとモコイは互いに顔を見合わせていた。ライドウは相変わらずの無表情だが、モコイの顔には何処か決意じみたものが漂っている。
そんなモコイを見つめて、ライドウは静かに訊ねた。
「……用意は、出来たか。」
「バッチリっス!」
「では、行こう。――ゴウト殿。」
「分かっているさ。打ち合わせ通りに、だろう? 先ずは俺たち先発隊が霍乱し、その間にお前たちがアスラを探し出して救出する。任せろ。」
「……手を煩わせて、しまい……済まない。」
「なあに、詮無いこと。アスラは仲間だ。その為に惜しむものなど何もありはしない。違うか?」
「……そう、だな。では――行って来る。」
「ああ。あまり無茶をするなよ七綺。」
それぞれに視線を交わし、言葉を交わし、黒猫と書生は左右へ散った。

ライドウの隣を走りながら、モコイは呟く。
「待っててね人修羅くん。今、レスキューしにいくから……!」
かくて一行は救出に向かう。
一人の少年、大切な仲間の為に、一丸となって。